キングオブパスタ

COLUMN

KING OF PASTA 2024

一人の高崎パスタファンから始まったキングオブパスタ。有志の運営メンバーが語る15年の歩み(後編)

COLUMN

2024年03月27日

地元有志のパスタへの情熱がキングオブパスタを生み出した

 

 
前編では、小麦の産地・高崎市の食文化のご紹介と共に、パスタとこの街へ情熱を注ぐキングオブパスタ運営メンバーの想いをお伝えしました。華やかなイベントの裏の苦悩や発足当初ならではの難しさや裏の苦悩を乗り越え、今や「高崎パスタ」を全国へと知らしめるイベントへ成長したキングオブパスタ。続いて後編では、第五回以降のキングオブパスタとこれからの展望についてお話しいただきます。

 

地域団体や企業とコラボレーション!
学生メンバーも加わり多様化するキングオブパスタ

 

 
⸻ 第四回の「旧高崎競馬場」開催を終え、再び市街地での開催が続いた第六回~第九回キングオブパスタ。記録を見ると、多くのコラボレーションイベントが開催されていますね。

 
小池 高崎市はイベントが多い街。「もてなし広場」では年間を通じて多くのイベントが開催されており、第五回開催の前日には車関係の展示イベントが行われていました。そこで、せっかくならとコラボバッジを作ったのが他イベントとのコラボレーションの始まりです。当日には近隣で「高崎菓子祭り」も開催されていて、お客さんに両方のイベントを楽しんでもらえるように協力し合いました。

 
青島 ストリート演奏を楽しむ「高崎おとまちプロジェクト」と同時開催や婚活イベントとの連携をした時もありましたね。街中の百貨店「スズラン」とのコラボでは、キングオブパスタと同時にスズラン店内で開催中の「イタリアフェア」をお楽しみいただきました。多くの団体や企業の方に応援いただいて、今に続いていることを実感します。

 
⸻ コラボレーションを受け入れるだけでなく、キングオブパスタの催しも幅が広がったとお聞きしています。どんな取り組みが始まったのでしょうか?

 
青島 「音楽の街・高崎」らしく、会場にライブや演奏ができるステージを用意するようになりました。群馬が誇る市民オーケストラ「群馬交響楽団」や群馬のご当地アイドルグループ「AKAGIDAN」を招き、色んな力でキングオブパスタを盛り上げてもらっています。

 
井上 入場する際に長蛇の列ができてしまったことに配慮して、イベント当日に道路の交通規制をしたり、遊びや休憩で使える遊具やベンチ、テーブルを道沿いに設置する工夫を始めました。有志が運営するイベントで交通規制をかけたのは市内で初めてだと驚かれましたよ。

 
青島 1万人を集客するイベントになったので、「どんどん便乗してくださいね!」というスタンスで積極的にコラボレーションや新たな企画を受け入れています。キングオブパスタがきっかけで高崎に来たお客さんが、地元の商店街や他イベントを巡り、後日また高崎へ遊びに来てくれることを望んでいます。

 
⸻ 回を重ねるごとに、イベントの幅が広がってきたことが伺えます。そんなイベントを下支えしてくれた「地元学生たち」の存在があるとお聞きしました。

 
小池 この頃から、群馬県立女子大学や高崎経済大学の学生に声をかけ、実行委員会のメンバーとして関わってもらうようになりました。もともと当日だけお手伝いしてくれる学生はいたのですが、当日だけでは学生も学ぶことが少ないなと思って。「組織運営の様子を学生に学ばせたい」と協力してくれるゼミの先生もいたことから、学生が出店者や出店を検討している店舗の交渉を担う部門を作り、一緒に運営を行っています。

 

歴代優勝店がしのぎを削る!キングの中のキングを決した第十回キングオブパスタ

 

 
⸻ 節目の開催となった第十回キングオブパスタは、特別仕様の「il Campione di KING OF PASTA」 歴代キング同士が競い合い“キングの中のキング”が誕生した回でした。

 
青島 第十回は「歴代優勝店の中からキングを決めよう!」と企画を立て、2日間の特別なイベントを行いました。一日目は高崎パスタの親善大使を決めるミスコン「クイーンオブパスタ」、二日目はキングの中のキングを決める「il Campione di KING OF PASTA」を開催。加えて「もてなしリストランテ」として歴代優勝店ではない店舗にも出店していただき、気軽にパスタや軽食を楽しめるブースも作りました。

 
井上 初めての2日間開催に特別なイベントの運営……今振り返ってみても「よくあの形にまとまったな」と驚きます。18,000人が訪れた2日間はバタバタで、あっという間でした。

 

コロナ禍でも歩みを止めない!スタンプラリー形式で開催された第十二回&十三回キングオブパスタ

 

 
⸻ そして2020年、新型コロナウイルスの流行により、全国で多くのイベントが中止となりました。しかし、キングオブパスタは形を変えて開催され続けましたね。

 
青島 コロナ禍当初はやはり「今年の開催は難しいよね」という話もありました。でも「キングオブパスタだからこそ、できることがあるんじゃないか?」という意見も出まして……どんな可能性があるか、皆で案を出してみようという話になったんです。外出自粛で飲食業界が厳しい状況の中、これまでキングオブパスタに協力してくれたお店へ手助けできないかと模索した結果、スタンプラリー形式での開催が決まりました。

 
⸻ 約1か月半ほどの期間中に参加店を巡り、2店のスタンプを一口として投票を募ったスタンプラリー形式のキングオブパスタ。コロナ禍ではありましたが、多くの参加者が楽しんだイベントになりました。

 
井上 投票ハガキにはコメント欄も用意したのですが、否定的なコメントはほぼありませんでした。普段と違う参加方法ならではの良かった点や運営への感謝を伝えてくださり、「コロナ禍で落ち込んでいた時にイベント参加できて楽しかった」とうれしい声が多く届きました。

 
小池 「スタンプラリー形式ならば」と、普段はイベントに出られないお店が参加してくれたことも良かったですね。お客さんも「この機会に色んなお店を巡ることができて楽しかった」と言ってくれて、規模縮小ではない新しいやり方で開催することができました。

 
井上 キングオブパスタが”イベント開催”を目的にしていたら、この形は思いつかなかったかもしれません。あくまで目的は”食文化の発信”や”地域活性化”で、イベントはその手法の一つという考え方をしていたので、柔軟に形を変えて実施することができました。民間団体だからこそのスピード感も活きましたね。

 
⸻ 2020年、2021年がスタンプラリー形式で開催されました。通常開催と違う運営で良かった点や苦労したことはありましたか?

 
井上 会場設営がなかったことは、運営の負担軽減になりました。一方で、投票の集計はとても大変でした。毎日郵便局まで山のようなハガキを取りに行かなければならず……。

 
青島 多くの方が参加してくださって嬉しい半面、井上さんは本当に大変だったと思います。

 
井上 あとはイベント会場がなかったので、表彰式を「高崎芸術劇場」で開催し、オンラインで中継したんです。配信当日、「マツコの知らない世界」で「高崎パスタ」が取り上げられて、ものすごいアクセスがありました。キングオブパスタのサイトもサーバーパンク寸前で、皆で「頑張った甲斐があったね」と話したことを覚えています。

 
青島 2020年、2021年と多くのイベントが中止に追い込まれました。もしかしたら、キングオブパスタもコロナ禍でストップして無くなっていたかもしれません。やり方を変えて、人との繋がりを絶やさずにやってきた――それが今に続くために大切なことだったような気がしています。

 

歴第十四回、復活のキングオブパスタ。高崎の未来に続くイベントとして、第十五回以降のキングオブパスタを“仕掛け”ていく⸻

 

 
⸻ 新型コロナへの対応も確立し、徐々に各地域でのイベントも再開し始めた2022年。従来のイベント形式で開催された第十四回キングオブパスタを待ち望んでいた方は多かったと思います。

 
青島 消毒と検温を徹底し、来場者の人数を制限して開催した第十四回。久々のイベントということもあって、予想よりも多くのお客さんにご来場いただきました。「旧高崎競馬場」で開催した第三回を思い出すほどの人出でしたね。

 
⸻ そして、今年。2023年は11月12日(日)に「もてなし広場」にて第十五回キングオブパスタが開催されました。今年も大盛況でしたね!

 
清水 皆さんのおかげで大きなトラブルもなく、たくさんの方にパスタを楽しんでいただけました。第十五回で目指したのは「向こう五年に続くイベントにしたい」ということです。会場範囲を群馬音楽センターまで広げ、パスタを食べたあとにデザートを楽しめる「ドルチェ広場」を企画しました。また、私個人にとっては、青島会長から実行委員長を譲っていただいた、初めてのキングオブパスタでした。閉会式では、感極まって涙を堪えながら話したくらい、思いが強い回になりました。今回から五年後――二十周年を迎えるときに、キングオブパスタをはじめ、高崎市全体で「パスタの街」として盛り上がりたいと思っています。

 
青島 今年から五年かけて、第二十回へ準備していくイメージですね。そのために“ある仕掛け”を考えていて……まだ言えないんですけど。

 
井上 運営メンバー全員、青島さんから「まだ言えない」としか聞いていないんですよ。

 
⸻ 青島さんがどんな“仕掛け”を考えているのか気になりますね。今後の展開について、方向性を教えていただけませんか?

 
青島 ”食文化の発信”と”地域活性化”をテーマに、ある意味「まちづくり」的な発想で成果を残したいと考えています。キングオブパスタの初回、市民の方の反応は「高崎でパスタ?」というものでした。しかし、回を重ねる中で「高崎と言えばパスタだよね」という人が増え、今では参加者の割合の多くが市民の方です。高崎の歴史や文化の中に、キングオブパスタが根付いてきたことを実感しています。

 
清水 以前、皆と「キングオブパスタをやっていなかったら、高崎は“何の街”って言われていただろう?」と話したことがあります。ここまで情熱をもってパスタのイベントを立ち上げる人は他にいなかったでしょうし、続けてきたからこそ生まれたものがあると感じています。イベントが目的ではないので、まちづくりに繋げられる幅があることも強みだと思います。

 
⸻ さらなる進化を求めて歩み続けるキングオブパスタ。これからの動きが楽しみです。ぜひ、意気込みをお願いします。

 
清水 今回以上にご来場いただいた方に「楽しい!」と思ってもらえることを第一に、来年以降も一生懸命準備を進めていきます。ぜひご来場の皆さんもイベントを楽しみながら、「パスタの街・高崎」を一緒に街を盛り上げていただければと思います。

 
井上 企画や団体のコラボレーションも色々やっていきたいですね。キングオブパスタのイベントにコラボレーションするだけでなく、前橋市の「キングオブピッツァ」のように「地域や地域の食文化を盛り上げたい」という志を同じくする方も歓迎しています。

 
青島 キングオブパスタの組織づくりを知りたいと、イベント関係者に興味を持っていただくことも増えてきました。我々には「高崎まつり」というチャレンジの場がありました。一から同じように組織を作るのは難しいかと思いますが、今後は若い世代が色々できるような土俵を作ることにも力を入れていきたいと思っています。

 

終わりに… キングオブパスタを通じて見えてきた、運営メンバーの高崎愛

 

 
⸻ キングオブパスタの始まりから今までの歩み、そしてこれからの高崎市の未来についてお話いただきました。改めて、運営メンバーの皆さんのパワフルさを感じています。なぜそこまで、高崎パスタや地域のことに対しての情熱があるのでしょうか?

 
青島 やっぱり、地元・高崎が好きなんでしょうね。都会があって、田舎があって、中途半端な大きさだけどそれがまた心地よくて。生まれ育った地域に対する想いが強いから、ここまで続けてこられました。

 
井上 以前「キングオブパスタを東京開催してはどうか?」という話もあったんです。でも、やっぱり我々のホームは高崎ですから。高崎の食文化や地域を発信することを第一に考えると、「高崎に来ていただく」ことは譲れないポイントだと思っています。

 
⸻ 振り返ってみて、この規模のイベントを地域の有志の力で運営してきたことにも驚きです。

 
井上 確かに、取材のたびに「運営メンバーって、有志の方なんですか!?」と驚かれますよ。前に社会勉強の一環でキングオブパスタの見学にきた子どもたちも「仕事でもプライベートでもない、第三の領域で活動している人たちがいることにびっくりした」と感想を伝えてくれました。ここにいるメンバーはそれぞれ本業がある人たちですが、「地域をよくしたい」という同じ気持ちで集まって一つのイベントを作っています。これって仕事だけしていたら知りえない世界。「こういう大人もいるよ」ってことを、子どもたちに伝えていきたいですね。

 
清水 俺は第二回を開催したときに「今後もこの事業を継続します!」って調子いいことを言っちゃった使命感があるんですよ。でも、その時の気持ちは間違っていませんでした。今も変わらずキングオブパスタは「続けていくべき事業だ」と思っています。あと、メンバーが皆、互いを助け合える仲間ばかりで居心地がいいところも、長年続けてこられた理由の一つだと思います。

 
小池「高崎まつり」で各々所属団体の看板を背負って出会ったメンバーが、キングオブパスタという一つのイベントを立ち上げ、それぞれの仕事を認め合う……そんな様子を手伝いながら見ていて、素直に「すごいな」と思いました。だからこそ、その後「一緒にやってくれない?」と仲間に呼んでもらったときの感動は言葉にできないほど嬉しかったです。一生懸命やることを互いに認め合う空気が、キングオブパスタにはあるんですよ。そういう経験を若い人たちにもしてほしくて、つい「忙しいだろうけど、頼む、やってみてくれ!」ってキングオブパスタの輪に誘ってしまいます。使った時間の何倍も素晴らしいものが返ってくるのを知っているので……でも、15年は長かったですね。

 
青島 つまり「私たちが楽しいから続けてきた」ということなんだと思います。「何事も10年続けると、一つの文化が生まれる」という言葉がありますが、キングオブパスタも一つの文化を作ったんじゃないでしょうか。高崎の中で一番お客さんを呼べるイベントとして成長し、全国に「高崎パスタ」を知らしめたことが私たちの誇りです。

 
 
笑いあり涙ありの15年間を和気あいあいと振り返る運営メンバーの皆さん。キングオブパスタのイベントを通じて叶えたい想いを語る眼差しは熱く、これから始まる新たな企画への期待感にもワクワクした取材でした。

だるま
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